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このクラブの歴史が“反省”から始まったことを誇りに思う。IKOMA FC 奈良、日本サッカー界最大規模1500機ドローンショーと、21:44まで取り残されたファンの笑顔
コラム
◇最前線で頭を下げ続けたオーナーと社長
「こんなんやったら、逆にバス乗り遅れて良かったわー」。4人の女性グループは、IKOMA FC 奈良選手たちの名刺交換攻撃を受け、笑顔を見せた。
時計の針は、21時44分を過ぎていた。
2026年3月14日、奈良県の生駒山麓公園で行われた日本サッカー界最大規模となる1500機のドローンショー。HAN-KUN(湘南乃風)など豪華アーティストのライブを含めた無料イベントに、約2000人が来場。播戸竜二社長を迎えて生まれ変わったクラブ「IKOMA FC 奈良」のキックオフイベントは、大成功に終わった。
しかし、予想を超える反響に生駒駅前へ戻るバスが足りなくなっていた。クラブは当然、バス会社と交渉し増便を取り付けていたが、21時過ぎまでこの公園に多くのお客さんが留まるのは異例の事態。3月の寒空の中、バス停にできた長蛇の列に、観客の体調が心配される。
これに対し、最後まで親身な対応を見せたのは、クラブスタッフ・選手全員だった。バス待ちの列を見て、「ご迷惑をおかけしてすみません」と声をかける選手。「次のバスは10分後に来ますので」と案内するスタッフ。カメラマンまでも、列の整理に回る。

特に印象的だったのは、オーナー企業SCOグループの玉井雄介会長が頭を下げていたことだ。
「ご迷惑をおかけしてすみません」とバスの乗り口付近で、家族連れを心配そうに見つめる。とにかく周りを元気にする播戸竜二社長は、シールを配り、不安を和らげた。
2人ともサッサとタクシーで帰ることは、いつでもできたはずだ。しかし、その選択は毛頭なかったのである。
バスがピストン輸送を繰り返し、混雑はほぼ解消。ただ、最後に数グループが取り残された。防寒のため「ふれあいセンター」内に移動したお客さんに対し、IKOMA FC 奈良の青野大介GMが呼びかけ、選手たちが自己アピールのため名刺交換を申し出る。取り残された女性グループは、逆に笑顔となり、特別な時間を過ごした。
結果、クレームにもなりかねなかった輸送問題は、笑顔で写真撮影して終了。無事、最後の乗客も家路に着いた。当然、準備不足は反省・改善すべき点だ。美談じゃない。しかし、準備を120点行っても100%成功するわけではない。それは、サッカーも同じ。だからこそ、このクラブの歴史が、ただ「すごいドローンショーをやって大成功」で終わらず、目の前の問題をみんなで協力して乗り越える、“反省”から始まって良かった、と思うのだ。
◇夜明け前、ビラ配りにざわついた生駒の街
イベントは、間違いなく最大級の成功だった。
前日から生駒の街は、ザワザワしていた。
生駒駅前では、3月13日17時からIKOMA FC 奈良の選手たちによるビラ配りが行われた。
選手の中にはPR初体験で、引っ込み思案の選手もいる。それでも、徐々に住民と打ち解け、会話が出始めた。18時少し前、大阪圏から多くの人が帰ってくると、せわしなくチラシを配り続ける選手たち。恥ずかしがる女子高生グループから、自ら寄ってきてくれる年配女性、子連れの方には目線を合わせて、市民との接点を大切にした。

夜、ふと入った夕食店のカウンターで、年配男性二人が会話している。
「スタジアムを作るなら、ここだろう」「KAZUが来てたら、どうだ」など、聞き耳を立ててしまう。まだ小さな火だが、サッカーが根付いた街の光景。ヨーロッパの小さなクラブの街で交わされるような会話が、確かに生駒で展開されていた。
元サッカー日本代表 播戸竜二社長は、イベント前日夜から翌日昼までに地元の7店舗に顔を出した。レストラン、バー、青果店、若者向けカフェ、それに洋服店。全てのお店でイベントを説明し、知ってもらえていることに喜びを見せた。少しずつだが着実に、クラブの認知は広がっていく。
◇奈良県最大規模の1500機ドローンショーにライブと圧巻のエンターテインメント
イベント「IKOMA FC NARA presents STAR MATCH NIGHT」当日の3月14日(土)。会場となる生駒山麓公園への無料バスは増便され、15時から輸送が始まった。公園ではIKOMA FC 奈良の選手たちが出迎え、「昨日ビラ受け取ってくれた方ですよね!」などコミュニケーションを重ねる。

実際のイベントスタートは17時だった。多くの親子連れ、アーティストのファン、年配の夫婦。テレビカメラも10台前後並ぶなど、メディアも目立つ。
最初はイベント主催者であるIKOMA FC奈良のプレゼンテーションから始まる。播戸社長が「クラブの合言葉は『すべては元気のために!』。サッカーだけでなく、色々なスポーツや文化も取り込みながら、この生駒の地に根を下ろしてやっていきたい」と挨拶する。公式ユニフォームお披露目では、モデルを務めた元日本代表FW都倉賢選手が「このカッコいいユニフォームで試合をするのが楽しみ。気が引き締まるようです」と決意を固めた。
アーティスト4組によるスペシャルライブは、まさに圧巻だった。『WILL SUPPORT』が一気に会場の雰囲気を変えると、生駒出身の『寿君』『DOZAN11 a.k.a. 三木道三』のパフォーマンスは熱気と地元愛に溢れていた。HAN-KUN(湘南乃風)の「YO!お前ら、生駒好き?」のコールに、子どもたちが「当たり前だろ!生駒好き!」と大声で答える。HAN-KUNの「この子たちの未来を消しちゃいけないぜ」の言葉が胸に刺さった。

そして、イベントのフィナーレを飾ったのは、日本サッカー界最大規模となる1500機ドローンショーだ。カラフルに描き出されるクラブエンブレムは100mを超え、ユニフォームが滑らかにはためく。光の輪をくぐり抜ける、鮮やかな色彩の馬(病気の馬を生駒山に放したら元気になった、との生駒の伝説に由来)が夜空に浮かび上がる。最後はゴスペルとの融合で、圧倒的クオリティの音と光のエンターテインメントは幕を下ろした。
参加した観客は口々に「こんなイベント、生駒ではなかった」と、興奮の言葉を口にする。全ては大成功のうちに終わったはず、だった。
◇血の通わないクラブ経営に意味はない。105年後もその姿勢を忘れず
しかし、バス待ちの列ができてしまった。寒い中でも、お客さんは一様に満足そうな表情を浮かべ、特に不満は出なかったが、オーガナイズは完璧でなかった。スタッフは綿密な準備を重ねて尽力したが、イベントは生き物。すべて、うまくいくわけじゃない。
だからこそ、反省して成長するのだ。良くなかった点を見つめ直し、一歩ずつ前に進む。それはまさに、サッカークラブが目指すものと全く同じ。自分にできる精一杯を尽くして、目の前のファン一人を笑顔にする。結果的に、この日のイベントでそれを実践できたのが、最大の財産だと思えた。

血の通っていないクラブ経営に、何の意味があろうか。
世界的に見れば、以前のマラガCFのようにオーナーが好き勝手して壊れたクラブがあるが、そうはなるまいと確信した瞬間だった。いずれ、このチームが勝ち上がり躍進した際、誰かが「金満クラブ」と揶揄するかもしれない。そんな時、僕はこの話を、10000回でも声高に話すだろう。「このチームは、心から人を大切にしようとするクラブなのだ」と。
SCOグループは、「テクノロジーで『105年活きる』を創造する」をパーパスに掲げる。IKOMA FC 奈良は105年先、より大きくなっているだろう。人は変わる。社長も変わる。
ただ、105年先も、この日の姿勢だけは忘れないで欲しい。
誰か一人の健康を想い、どんな困難があってもお客さんを元気にする。そのために、全員で成長を続けよう。この選手・監督、クラブスタッフや関係者なら、絶対できる。そう感じられたこのイベントを、僕は心から誇りに思っている。
IKOMA FC 奈良 編集長 守本和宏
